九死に一生

 そういえば最近、あの時は死んでいてもおかしくなかったな、という体験を思い出したので少し書こうと思う。

 

結論から言うと車の事故なのだが、幸い単独事故で自身にも車にも大きなキズは残らなかった。

 

まずその日は寒い日だった。1月か2月くらいだったと思う。時間帯は3時4時くらいの深夜だった。

自分は夜勤で当時は働いていて、その日はたまたま早上がりでまだ暗いうちから帰宅することができた日だった。加えて次の日もちょうど休みだったし、早上がりということもあって割とテンションも高い状態だったと思う。

通勤には車を使っていて、普段は往復で1時間以上だったが冬場は吹雪だったり、天候や路面の問題で通勤に2時間前後はかかっていた。

 

当時、自分は時間に追われるように生きていた。少しでも労働の時間の束縛から逃れ、趣味の時間に没頭することだけが生きる意味だった。

通勤の時間も帰る時以外は苦痛でしかなかった。それゆえだったのだろう。

 

事が起きたのは交差点だった。昼間であれば車の往来が激しく交わされており、常に信号には車が止まっているくらいに車の通りがある場所だった。

とにかく自分は早く家に帰りたい一心だった。早上がりという事もあったし、冬場の深夜で普段は車の通りも激しい交差点はがらんどう。寂しさすら感じられるような交差点に自分は半ば興奮のようなものをしていた・・・気がする。

 

信号まであと2,30mというところで信号はまだ「赤」だった。

ただ、それでも車の速度を調節すればギリギリ信号が「青」に変わりそうな予感があった。何度となくその交差点を通勤で通っていたため、信号の変わるタイミングは肌感でわかっていた。

 

そして案の定、車の速度を調節しつつ、交差点へ向かって行くと信号が「青」に切り替わったのだ。そこの交差点は信号に引っかかると待つ時間が長い。

 

そんな交差点の信号に引っかかることなく、侵入できた自分のテンションというのは上がりっぱなしだった。そうして自分は上がりっぱなしのテンションでハンドルを切り、交差点を曲がろうとした。

 

・・・そして曲がれなかった。路面の状態を軽視し過ぎていたからだろう。

 

タイヤはスリップし、ブレーキはABSロックがかかり、キュルッキュルッとタイヤが滑っては固まり、滑っては固まり、冬季スポーツのカーリングのように車自体がストーンみたく凍った路面を滑ってゆき・・・

 

最終的には180度に車が半回転し、交差点のど真ん中でスリップは止まった。

幸い、周りに人も他の車もなかったし、壁に激突等をして車にキズが残ることもなかった。

180度に回転したのもタイヤが地面に接地したまま、車の向きが変わっただけだったため、大きな問題にはならなかった。交差点に他の車があれば間違いなく大事故ではあったが・・・

 

スリップした瞬間は時間がどこまでも緩やかに感じられたのを覚えている。

 

右に、左に、そしてまた右に。スリップしている車のコントロールを戻そうとハンドルを何度も切り返したのだが今、思えばかなり冷静に運転していたと思う。そもそも根本は自分が原因なので、運転が下手くそという事実は変わらないのだが・・・

 

ともかく、これが自分の体験した九死に一生の事故の始終。

 

あれからというもの、冬場は必ずブレーキを細かく踏んで路面に意識を向けるのが癖になっている。車は急に止まれない。本当にその通りだと思う。

 

冬場の路面状況というものは時間や天候で変わりやすい。それは慣れた道でも同じことだ。むしろ慣れた道ほど、こういうミスは起きやすいようにも思う。

 

どうか今の時期は一層、安全に意識を向けて運転をしてもらいたいものだ。

まぁ・・・自分のような体験をしないとわからない者はわからないのだろうが・・・